対 談 <Feel the Fuji Festival>

音楽家が本来もつ巫女的な部分が音とつながることで、
この地と上の世界の間に炎を燃やすような役目であれたらいいと思う。

松居慶子 × 柳瀬宏秀

柳瀬
Feel the Fuji Festival――富士山を感じる心を取り戻す「祭り」――に参加するということについて、どのように感じていますか? この祭りは「時間をはずした日の祭り」でもあるわけなんですけど。

松居
『コズミック・ダイアリー』はよく見てるんですが、私、実は誕生日が7月26日(時間をはずした日の翌日。コズミック・ダイアリーの新年が始まる日)なんですね。だから、これは何かあるに違いないと……(笑)。

柳瀬
富士山のクリーンキャンペーンというのは山ほどありますが、そもそも何でゴミを拾わなければならないかというと、捨てるからですよね。じゃあ何で捨てるんだろう? と考えてみると、富士山を感じてないからじゃないかって思うんです。みんなの中に富士山を感じる心があれば、なかなか捨てられないはずじゃないですか。もちろん環境対策など具体的な環境改善の運きも大切ですが、その柱と、もうひとつの大きな柱として「富士山を感じる心を取り戻す」必要があるんだと思う。そうじゃないと、永遠にゴミを拾い続けなければならなくなってしまいます(笑)。こうしたことを精確に感じ、考えるために、まずFeel the Fuji、富士山を感じる心を取り戻すことから始めよう、というのがFeel the Fuji Festivalのコンセプトなんです。

松居
富士って日本のエネルギースポットとしても聖地的な役割があって、次元も高い場所だという話を聞いたことがあります。私の中で音楽とつながっているときっていうのは、常に目に見えない何かを感じていたり、そうしたものとコンタクトしながら存在しているときでもあるんです。だから最初にこの「祭り」のタイトルを聞いたとき、あぁ、あの富士の波動の中で音楽を捧げることができるんだと、ものすごく嬉しく思いましたね。時間を見つけて富士に行きたいって、もう何年もずうっと思い続けていたんです。だから富士がもっている「何か」を感じたい、という思いはすごく強いですね。子供の頃に行ったのとはまた違って、今なら音楽を通してその「何か」を別の形で感じることができると思うし。そういう意味でもFeel the Fuji Festivalに参加できるのは、すごくワクワクするし、楽しみです。

柳瀬
霊峰富士って昔からいいますけど、富士山って何なんでしょうね。

松居
新幹線やクルマの中からでも、富士山が見えると嬉しいですよね。アメリカから来たミュージシャンやスタッフたちが富士を見たいというので、一度、連れて行ったことがあるんですが、残念ながらそのときは雲に隠れていて全然見えなくて(笑)。でも日本人でなくても、彼らにもやっぱり独特のイメージはあるみたいですよね。

柳瀬
松居さんは現在、1年のほとんどをアメリカで過ごされているんですか?

松居
最近はアメリカに5ヶ月、ヨーロッパに1ヶ月といった感じです。

柳瀬
Feel the Fuji Festivalの広がりとして、世界の聖地で“時間をはずした日”に「祭り」を、という呼びかけを今年から始めたんですが、海外のアーティストたちにも富士のもつ「何か」って伝わっている気がします。

松居
そうですね。やはり何かスピリチュアルなものを感じるんじゃないでしょうか。

柳瀬
苗場で行われているFUJI ROCK FESTIVALに出演するアーティストたちも、実は富士山が見られると思って来てたりして(笑)。

松居
かも知れませんね(笑)。

柳瀬
Feel the Fuji Festival の7月25日のほうのチラシでは、松居さんを含め女性アーティストたちを「木花咲耶姫(このはなさくやひめ)」みたいな形で紹介してるんですけど、どうでしょうか?

松居
ある人によると、音楽家というのは巫女のような存在だというんです。自分は元々ヒーラーだったという人もいたりするんですけど、やはり音楽家にはそういった役割ってあると思うんですよ。音楽家が本来もっている巫女的な部分が音とつながることで、この地と上の世界の間に炎を燃やすような役目であれたらいいなって、私自身思います。

柳瀬
巫女のような存在。アーチストは、祭りにおいて司祭であってほしいと思っています。Feel the Fuji Festivalにしても、京都満月祭りにしても、そもそもコンサートのつもりではないんです。人が集まらないから土日に開催するとか商業ベースでしか考えず、時と場所をおろそかにしはじめたときから、「祭り」はイベントになってしまった。一番わかりやすい「祭り」の例として収穫祭があります。

大地があって太陽があって川があって、初めて収穫できたということを感じるところから、感謝祭をするわけです。だからある所では大地に向け、ある所では天に向けて「祭り」をする。すべてがつながっているということ、つまり周囲の環境を意識することで初めて収穫できたことを喜ぶというのは、すごく科学的な認識ですよね。“すべてがつながっている”なんていうと宗教的に聞こえるかもしれませんが、実は科学に基づいた認識なんです。そして大地に感謝を捧げ、祈りを捧げるとき、その祈りの向こうにある自然の摂理や循環に感謝するために、人が集まり、そして音楽が生まれたんじゃないかって気がします。そんな「祭り」から生まれた音楽という原点に立ち返るために、Feel the Fuji Festivalも「京都、満月祭り」も「祭り」と名づけているわけです。

形態自体はいわゆる「お祭り」とは異なるかもしれないけど、そういった「祈り」的なものをみんなで共有するために、舞台の上でアーティストたちが司祭のような存在になれるといいなって思いますね。音楽家は巫女のような存在とおっしゃいましたが、その点でも、松居さんは、すごく音楽の本質を理解している人だと感じます。こうしたことを理解していない方であっても、ここで、もう一度音楽の原点に立ち戻ることで、精神的なものを含めて、循環が起こるような空間を創れたらいいですよね。

松居
音楽の原点というものを考えたとき、私も柳瀬さんがおっしゃられたような要素は常にもっていたいと思ってるんです。収穫できた喜びを、祈りとして太陽や大地や神に捧げるとき、感謝の気持ちを表す歌やリズムが生まれ、そしてそれが原点としてアフリカから音楽が始まったのだということを。だからどうしようとか、これを感じてもらうためにこうしようといった具合に曲を作っているわけではまったくないんですが、私の音楽に対する意識の根底には、そんな思いがいつもある。だからFeel the Fuji Festivalに参加することって、私自身にとっても大変意味があることなんですね。

柳瀬
地球が人間の身体だとしたら富士山などの聖地ってツボみたいなところなのかなって思います。何のツボかはわからないけど。そういった場所に人が集まって祭りをする、そして祭りをする人の意識によってエネルギーが活性化する。そんなことを通して地球と人間の本来の関係をもう一度取り戻せるんじゃないかなって思います。

松居
そういう場や自然の中に身を置いてみることで、本来あるべき“流れ”にもう一度気づかせてもらえる部分というのは、確かにありますよね。それってすごく大事なことだとわかっていながら、私自身なかなかそういった時間をもてないまま日々過ごしてしまっているわけですけど。アメリカ・オレゴン州のワラワレイクという湖で行われたジャズフェスティバルに参加したことがあるんですが、本番当日にプロモーターの誘いでチーフジョセフ(西部開拓史上に名を残す先住民の酋長で、ネイティブアメリカンが生んだ最高の指導者といわれる人物)の眠っているという山に登ったんです。その晩、ワラワレイクで演奏したんですが、最後の曲のとき低音がものすごく響いた瞬間があったんですね。その場にいた誰もが「何かが降りてきたにちがいない」って思うぐらいの。すごく神秘的な時間でした。そして確かそのコンサートのときだったと思いますが、ネイティブアメリカンの血を引くあるお客さんが「ケイコの音楽は、何か自分たちのルーツと共通のものを感じる」って言ってくれたんです。もう、すごく感慨深いものがあり、そのときのことは今でもはっきりと覚えています。すべてのことには理由があると考えると、そういう場に身を置いて、目に見えない、言葉にもなかなか表せないようなモノを感じることって、私たちに何かを気づかせてくれるはずだと思うし、そういう瞬間というのは人生の中のどこかのポイントで誰もがもらっていると思います。普通に過ごしているとなかなか気づかないことかもしれませんが、だからこそ敢えてそういう場所に身を置いてみることで、すごく良い変化を与えてもらえたりするんじゃないかなって、私は信じています。

柳瀬
富士でも、その日そこに集まるお客さんやアーティストたちの思いが、何かそういったものを生み出せるはずですよね。またこうしたインタビューを通して松居さん自身がそういう思いをもってFeel the Fuji Festivalに参加するっていうことが伝われば、富士山を感じる心を取り戻すというコミュニケーションをより広げられると思うし、心の中のビジョンが現実にも波及していくと思う。そして富士には、そんなことを信じられる、感じられる人が集まるような気がします。

松居
本当にそうなったとき、地球はようやく良い方へ向かうのかもしれませんね。


<祭り>
地球上のいたるところで多くの人が同じときに
一斉に祈りを捧げれば、ものすごいエネルギーが生まれるはず。


柳瀬
今年の3月20日、この日はイラク戦争開戦1年目にあたる日なんですけど、イラクで「13の月の暦」の提唱者であるホゼ・アグエイアスや何人かのネイティブの方が集まって平和の祈りを捧げているんです。それからホゼの来日を挟んで、イラクでホゼと一緒に祈りを捧げたうちの一人であるチーフ・ルッキングホースというネイティブの方が来て、6月に富士山で平和の祈りをしたんですね。実は去年の夏、TFMの番組に「京都、満月祭り」をテーマに1ヶ月間ゲスト出演したとき、来年は「時間をはずした日の祭り」を富士山で行い、世界の聖地での祭りを呼びかけるんだという話をしたんです。すると、そこにいあわせたスタッフの一人が、実はルッキングホースがWPPD(World Peace & Prayer Day――せかいへいわといのりの日)という形で、毎年世界の聖地で祈りを捧げているんだけど、来年は富士山でやるって言うんですね。そこに直感的なつながりを感じて、この間の夏至の日、富士で行われたWPPDに行って来たんです。当日はちょうど台風が来ていたんですが、ものすごい風雨の中、それでも若者を中心とした2000~3000人近い人たちが輪になって祈ってるんですよ。こういった感性が、今、ここに来てどんどんつながり始めていることを実感しました。そもそも「時間をはずした日の祭り」というのは1999年から呼びかけてるんですけど、世界中で500近い祭りを生み出しているという、それはすごいことだと理解できても、それぞれがしっかりとつながっているという感覚がいまひとつしていなかったんです。だけど今年の3月ぐらいから、目に見えないところでそれらが有機的につながり始めてるなっていう気がすごくしています。今年の7月25日は世界で1000近い祭りが行われるんじゃないでしょうか。

松居
心の祈りという部分で、多くの人が同じときに一斉に矢印をどこかに向けるわけじゃないですか。それが地球上のいたるところで起きるということは、ものすごいエネルギーが生まれるはずだし、それが何かを動かす力になると思います。

柳瀬
当日は日曜日ということもあって「時間をはずした日の祭り」と銘打たなくても、ユーミンやBEGIN、UAなど『コズミック・ダイアリー』に賛同してくれているアーティストは全国のさまざまな場所で同じ日にコンサートをやっています。他にも、『地球交響曲(ガイアシンフォニー)』という映画を撮っている龍村仁監督のお姉さんにあたる龍村和子さんの呼びかけで、毎年時間をはずした日に一番近い土日に富士山の五合目でセレモニーが行われています。夜のうちに富士山に登り、翌朝ご来光を見ながら、スーザン・オズボーンの歌を聴いたりするわけですが、天河大弁財天社の宮司やチベットの僧もこれに参加しているんです(『思いやりの日』。今年は7月24日24時から翌25日ご来光まで富士山御殿場口五合目で開催。ご来光とともに参加者全員で瞑想して世界の平和を祈る)。また「鳥居講」といって12年ごとに富士山山頂の鳥居を取り替える儀式があるんですが、今年の7月25日がちょうどそれに当たるんです(『岩淵鳥居講』。12年に一度、申年の7月に、富士山山頂に鳥居を奉納する)。さらに同じ日、大阪では天神祭り(日本三大祭の一つで、菅原道真公を奉った大阪天満宮で毎年7月24・25日に行われる)が、ヨーロッパではカトリックの聖ヤコブ祭(毎年キリスト十二使徒の一人、聖ヤコブを奉る7月25日に行われるカトリック最大の祭り)が開催されます。つまり7月25日は、地球全体が特別な1日を迎える日でもあるんです。そしてFeel the Fuji Festivalもまた、そんな日に行われる「祭り」なんですね。精神的なものと現象的なものが結びついた「祭り」が本当に生まれいでたとき、宇宙から地球を見たらそれは光のように映るかもしれません。それが地球上全体に広がって、それぞれがどこで何をしているかをある程度知ったら、そこに参加している全員がつながれると思うし、人間の意識でガイアを活性化できると思うんですよ。「祭り」を呼びかけ始めたのも、そんな思いからなんです。松居さんの音楽仲間たちにも是非呼びかけて欲しい。別にハウスコンサートでもいいと思うんです。同じときにできるだけ多くの人の魂が同じような動きをしてくれれば、すごい素敵な日になるはずですよね。まぁ言ってみれば、世界中が松居さんのお誕生日の前夜祭をやってくれてるようなものですよ(笑)。

松居
ああ、そうか(笑)。何だか今年はすごくよい節目になりそうです。なかなかこんな年はありませんよね。

柳瀬
7月26日というのは『コズミック・ダイアリー』で新しい年が始まる日でもあるんですが、エジプトなど古代には、この日を新年とする文明がいくつもあったようですね。もちろんマヤ文明もそのひとつ。ところで松居さんは「Steps of Maya」(アルバム『指輪-YUBIWA-』収録)という曲を作られていますよね。僕もすごい好きな曲なんですが。

松居 
“Maya”というのは、マヤ文明の「マヤ」と娘の名前「摩耶(まや)」のダブルミーニングなんです。以前、メキシコのトゥルム(ユカタン半島のカリブ海に面したロケーションにあるマヤ文明の遺跡)を訪ねてピラミッドを昇ったことがあるんですが、その階段を一歩一歩太陽に向かって昇っていくイメージから生まれてきた曲です。

柳瀬
実際に行ってみて、どのような感じでした?

松居
トゥルムはかなり殺風景なところにポンとあるだけなんですが、何かその場だけ特別な空気が流れている感じはしますよね。その一角だけ、宇宙の中にポッと現れているような印象を、私は受けました。

柳瀬
ちなみに娘さんの「摩耶」という名前はどこから付けられたんですか?

松居
仏様のお母さんが同じ「摩耶」という名前なんです。これなら英語で表記しても読みやすいし、画数もよかったので決めました。彼女自身は自分の前世はマヤンカルチャーと何か関係があるんじゃないかって勝手に思ってるみたいですけど(笑)。

柳瀬
実はウチの娘も「真愛(まや)」っていうんです(笑)。90年ぐらいに美内すずえさんと、コミック『ガラスの仮面』の映像化について、今インタビューしているこの同じ店で打ち合わせしたことがあるんですが、この作品の主人公がマヤという名前なんですね。

松居
テレビドラマにもなってますよね。ウチの摩耶も見てました。

柳瀬
本当ですか? そのドラマを企画プロデュースしたのです。『ガラスの仮面』の主人公マヤは演技以外何もできない少女でしたが、演技を通してこんなに変われるんだという。このガラスの仮面を通して、人間のもつ無限の可能性を伝えたいと思ったんです。S・スピルバーグの『シンドラーのリスト』という映画がありますけど、この作品の主人公・シンドラーという男はナチ党員のドイツ人で、金儲けのためにユダヤ人を雇い、酒好きで、女好き。スピルバーグが描くシンドラーは聖人でも偉人でもいない。そんな人間が1700人のユダヤ人の命を救うわけですが、これを見たとき、スピルバーグが伝えたかったのは、つまり「あなたにもできますよ」っていうメッセージだと思ったんですよ。そして翌年のアカデミー賞を獲ったのが『フォレストガンプ』。知能指数85の人間が・・・・・・多民族国家、価値観が多様なアメリカからこういう作品が次々と生まれてくるのは、彼らは無意識のうちに、「人間には無限の可能性がある」ということを普遍的なテーマとし、世界的に通用するマスコミュニケーションのメッセージとして見出しているからだと思いました。日本にはそんな作品がない。『ガラスの仮面』なら、まさに、「人には、子供には無限の可能性がある」そんな作品を作れるはずだと信じて、あのドラマは生まれたわけです。しかし当時は日本にそんな映画もドラマもなかったし、この思いを汲み取ってくれる映画人もいなかったから、なかなか形にすることができませんでした。当時、サラリーマンでしたから、いつセクションが変わるかもわからない。娘の「真愛」という名前には“宇宙的な愛に目覚める”という意味を込めていますが、一方で『ガラスの仮面』の主人公と同じ名前にすることで、「マヤ、と娘を呼ぶたびに、」映像化、永遠化出来てなければ、柳瀬は一生、仕事のできないヤツだ、と思い出すぐらいの(笑)。

松居
でもいいですよね、お仕事とやりたいことを具体的に結び付けられるのって。そういう方って決して多くないと思うし、ロマンを描きながら仕事を続けていくのってなかなか難しいという現実もありますからね(笑)。

柳瀬
(笑)。しかし自分の子供に同じ「まや」という名前を付けているなんて、偶然とは思えませんよね。

松居
ちなみに下の子は真理の子と書いて「真子」なんです。意味もそのとおり“真理の子”。で、3ヶ月前からフラットコーテッドレドリバーという犬を飼い始めたんですが、彼女の名前が光の子と書いて「COCO(ココ)」。慶子と真子と光子で3人トリオを作ってます(笑)。でもね、ウチの子は二人とも目に見えない「何か」を感じる心をもっているとは思うんですが、私がその手の話をすると「迷信、迷信。そんなこと言うのはママぐらい」なんていつも言われてしまうんです。

柳瀬
そうしたバランス感覚というのもある意味、大切かも(笑)。ウチの子も『コズミック・ダイアリー』はもっていますが、実際に使っているかというと、どうでしょう。今、静岡の函南という富士山が目の前に見える場所に住んでいるんですが、富士山をきれいにするための動き、Feel the Fuji Festivalを実行しないと、お前の言っていることはウソじゃないかと毎日富士山に言われてしまうわけなんです(笑)。

松居
なるほど、有言実行するしかないんですね。

柳瀬
もし「時間をはずした日の祭り」を通して大地や宇宙を感じる人が増えたなら、再来年あたりから、世界の聖地の祭りを本当にやっていきたいと考えています。松居さんも是非、協力してください。

松居
もちろん。是非、声をかけてください。

柳瀬
『コズミック・ダイアリー』では28日×13ヶ月の暦の他に260日周期のツォルキンという暦を使用していることはご存知ですよね。ツォルキンというのはマヤの人たちが使っていた暦のひとつですが、ツォルキンの260日分を5125年として計算する、今回の歴史の5125年を「13バクトゥン」という形で表し、1バクトゥンで395年に分けることが出来るですが、真のマヤ文明が最も栄えたのは歴史の始まりから10番目に当たる時代、西暦435~830年の間なんです。マヤ暦によると文明の誕生は紀元前3113年なんですが、この年代というのが今のイラクの語源になったウルクに世界最古のメソポタミア文明が始まったとされる年と一致しているんです。彼らはどのようにして自分たちの歴史の起点を、20世紀の考古学者が解明したのと同じ紀元前3113年だと知りえたのでしょう? 他にも地球の公転周期を1000分の1秒単位で把握していたなど、マヤの人たちはどうも非常に高度な知識をもっていたようなんです。彼らのこの叡智が明らかになったのが今から52年前の6月15日、メキシコのパレンケというところでパカル・ヴォタンという王様の墓が見つかったとき。52年とは260日と365日の2つの周期がちょうど一周りを終えるサイクルでもあることから、『コズミック・ダイアリー』を使っている日本人とホゼでパレンケに行こうということになったんです。

松居
えーと260と365の最小公倍数……ということですよね。すいません、頭が混乱してきました(笑)。

柳瀬
(笑)。ただし6月15日はもう過ぎてしまってますから、実際に行くのはその260日後にあたる来年の3月2日になりました。で、せっかく行くんだからパレンケのピラミッドの前で「祭り」をしようとまで柳瀬は考えているんですが(笑)、松居さんもいかがですか? 喜多郎さんにも声をかけてみようかなって思ってます。

松居
世界の聖地で「祭り」をってことを考えると、それってすごくワクワクしますよね。喜多郎さんとはスタジオが隣同士になったことがあって、彼の住むボルダーというところは冬は深い雪に閉ざされていまうような土地なんですが、氷の解ける音を録ってるなんて言ってましたよ。一度ご夫婦で私のコンサートにも来てくださってます。

柳瀬
じゃあ喜多郎さんと一緒にどうですか? 

松居
面白そうですね!


<宇宙・月>
何か特別な感覚を受けるときにふと見上げてみると
空に満月が浮かんでいる、なんてことがすごく多い。



柳瀬
パレンケはマヤ遺跡の中で最も有名な場所のひとつですが、メキシコにはまだ発見されていない遺跡が2万6000箇所ぐらいあるらしいです。松居さんはトゥルムのピラミッドを昇ったときに、何か宇宙を感じたようなことをおっしゃってましたけど。

松居
その日はとくに空が冴え渡っていたというわけではなく、むしろどんよりとした天候でしたが、トゥルムの遺跡には何か不思議な空気感がありましたね。もしかしたら、そこだけ次元が違っていたのかも知れません。でもそんなことを意識するしないに関わらず、遺跡がそこにあるというよりも、“そこに現われている”といった感覚を受けました。実は私、“月”もすごく感じるんですよ。何年か前にアメリカのドキュメント番組のために宮島の厳島神社で先日亡くなられてしまった狂言師・野村万之丞さんと共演したことがあったんです。このときの映像監督の希望で、撮影は厳島神社が最も美しく映えるフルムーン&ハイタイド、海面の一番高いときに行われたんですね。10月の満月の晩のことです。境内の海側の先端に引き潮のうちにグランドピアノをセッティングして、そこで私が演奏しながら万之丞さんが舞ったわけですが、何とも不思議なムードに包まれた夜でしたね。冷たい風が山から下りてきてすごく寒いんだけど、神様がそこにいたことがひしひしと感じられたというか、まさに神とともにあった晩としか言いようがありませんでした。もともと月には感じるものがあったんですが、その日以来、何か特別な感じを受けるときにふと見上げてみると空に満月が浮かんでいる、なんてことが結構多くなりました。

柳瀬
それでは「満月祭り」も一緒にやるしかありませんね。満月祭りは、いつ満月かも知らなくなった日本人が、本来の日本人として、日本文化の継承者として、満月を感じるという目的で始めたわけですから、京都だけではなく日本中で実現したいんです。厳島神社、出雲大社、イザ那岐神宮、京都、日枝神社、明治神宮、伊勢神宮を中心に「日本、満月祭り」として。松居さんは神社なんかでも何か感じるものはありますか?

松居
最近一人で神社へ出かけていったりしてますよ。地元の氏神様ですけど。初詣などでなくても、今行っておきたいなって感じるときに、一人でブラブラと。結構、好きな空間ですね。

柳瀬
満月祭りのほうはFeel the Fuji Festivalが終わった瞬間に、全国の自治体などへ向けて一斉に呼びかけていく予定なんです。山形の月山でやりたいとか、いろいろなところから声はかかってるんですよ。月山は昔から聖地としても崇められていますよね。満月祭りもやがては世界の聖地で行えるようになればいいんですけど。アメリカでもやりましょう。アメリカの月ってどうですか?

松居
同じはずなんですけど(笑)、アメリカで見る月と日本で見る月は全然違うものなんじゃないかって首を傾げるくらい不思議な感覚に陥ることはあります。例えば私の住む西海岸のハンティントンでは、どよんとしたものすごく巨大なオレンジ色の月が海から低く上がって見えることがあるかと思えば、満月の夜には、月光が素晴らしくキレイにリビングに差し込むこともある。とくに私の住んでいる家はハーバーに面していて、満月が美しく見えるようにと建築家が自分のために建てた家だったりするもんで。

柳瀬
桂離宮ですね(笑)。

松居
(笑)。リビングが弧を描いているんですけど、満月の夜、月が一番高い位置に来ると、その光が海に下りてハーバーのヨットを越えて、さらに庭にある池のようなプールを越えてリビングに一直線に差し込むんです。まぶしいぐらいの白光なんですが、それはもう本当にキレイ。そうかと思うと、グランドキャニオンへ行く途中にレイクパウエルという人工湖があるんですが、その火星を思わせるようなデコボコした赤い岩に囲まれた深緑の湖の上に浮かぶ月は、ポーンと宇宙の空間に現われているような別世界を思わせ、不思議な感覚になります。

柳瀬
今、熱海のアカオリゾート公国でコンサルタントをしていて、9月から11月まで「月の癒し」というキャンペーンをやります。大海原と緑に囲まれた自然の中で月を感じてもらおうというものなんですけど、レストランでは月の名前の付いたバイオダイナミクスのワインを楽しめたり、ベッドには今日は満月で大地が21センチ浮き上がるとか、十六夜には“ためらう”という意味があって月の出が1時間遅くなるといった感じで、その日の月の名前を記した色紙のような案内を置くんです。こうすることで同じ晩に1000人の人が月を感じられれば、それは満月祭りと同じ意味をもつことになるじゃないですか。こういったことを日本中はもちろん、世界中にも広げていけたら素敵ですよね。同じ月を見て何千人もの人が何かを感じることができれば、それはすごく大きな意味をもつはずです。松居さんは月や宇宙を感じながら曲を作ることもあるんですか?

松居 
宇宙を感じるというか、作曲するときはメロディが聴こえてくるのを待つんです。夜中が多いですが、なるべく一人で集中できる時間と場所で、何も弾かないで頭の中にメロディが聴こえてくるのをひたすら待つんです。聴こえてくるのはちょっとしたモチーフだったり、曲によってはイントロから最後までだったり。“ご縁”といったらいいのかな、絶対このアルバムのために生まれてくる曲というのがあるはずだと思ってますから、何も弾かず、聴こえてくる音をキャッチするのを待つことを大事にしてるんです。弾きながらの作曲だと手癖だったりで、いくらでも作れてしまいますが、聴こえてくるメロディはそれとは全然違います。まあ、お陰でどんどんデッドラインを伸ばして、みんなに催促されてしまうことになるんですけど(笑)。聴こえないときは全然聴こえませんからね。そのためにも聴こえたいと思っている時間をある程度溜めておくんです。ぐうっと溜め込むことでワインがグラスから溢れるような感じで、ようやく聴こえ始めるというか。だから日常に追われていると聴こえたくてもまったくダメですよね。

柳瀬
それにしても松居さんの中に音楽が聴こえてくる瞬間というのは宇宙とのシンクロというか、それさえ超えているかもしれませんよね。

松居
でも、ときどき思うんです。旅の途中なんかにふと気づかされるんですが、私にはたまたまピアノがあったけど、もしかしたら本当はみんなと心をひとつにして“ワンネス”みたいなものを感じる機会を積み重ねるために生かされているのかもしれないって。もしそうだとしたら、音楽をやってるということさえ本来の私には関係なくなってきて、本当に不思議な感覚になりますよね。

柳瀬
今日はありがとうございました。そして、時間をはずした日に、富士山で、FEEL THE FUJI 富士を感じることを通して、日本人が自然の、宇宙の摂理を取り戻すことを願いたいと思います。


~松居 慶子さん プロフィール~
ピアニスト、作曲家

「全米 スムースジャズ賞最優秀女性アーティスト賞」を 2年連続受賞。
ア ルバム「ディープ・ブルー」が全米ビルボード誌コンテンポラリージャズ部門
におい て日本人として初めての第1位を獲得、 3週にわたり1位をキープする。
N.Yのテロ被害の救済と平和を願うためのチャリティ・コンサート「a Wave of Peace」に、
ス ティービー・ワンダーやケニー・Gらとともに出演。

Official Siteはこちら

http://www.jsdi.or.jp/~jun/KMMFSJ.html (日本語)
http://www.keikomatsui.com/ (ENGLISH)