雑誌『星の声』掲載記事

 

雑誌《星の声》掲載記事抜粋

 

柳瀬宏秀

『コズミック・ダイアリー 2001』著者

○世紀をまたぐ"偶然の一致"

柳瀬さんが『コズミック・ダイアリー』を企画された、そもそものきっかけを教えてください。

「1997年のことになりますが、ホゼ・アグエイアス【注1】が来日するということを偶然知って、不思議な縁で、翌日には、もう私の自宅へ遊びにきていたんですよ。そのときに"どうすれば『13の月の暦』【注2】を、もっと広めることができるだろうか?"という相談を受けました。一般の読者にとって、『13の月〜』は、そのままでは、少々使いづらいですからね。そこで、"ダイアリー"として、毎日日記をつけているうちに、西暦から『13の月〜』へと──すなわち、28日周期の暦へと自然にシフトしていけるものを作ってみたらどうか、という話をしたのが始まりですね」

西暦の上では、新たな世紀へと突入したわけですが、21世紀において『コズミック・ダイアリー』の果たす役割とは、どんなものだとお考えですか?

「実は、世紀の変わり目を迎えるに当たり、たまたま思い立って、伊勢に行ったんですよ。新世紀の新年は"やっぱり伊勢神宮でしょう"と(笑)。直前だったにもかかわらず、たまたま宿も取れ、また、たまたまお誘いを受けて、内宮の神楽殿で開かれた新世紀0時0分からの初神楽にも参加させていただきました。一方、ちょうど伊勢に行こうと決めた頃、ホゼからメールが来まして、それには"┃"というルーン【注3】の文字がありました。

彼がマヤの研究を続けてきた中で、ルーンとの関係を考えている部分もあるんです。古代の地球上において、すべての叡知がリンクしていたという考え方なんです。そして、この"┃"については、"ひとつの意思の下、垂直的な価値観に統合される自然の摂理"を象徴する文字だと説明されました。"伊勢"をめぐる、絶妙なシンクロニシティの発生ですね。

暦の上での巡り合わせもありまして、260日周期であるツォルキン【注4】の新たな始まりが、正月三が日を挟んで、ちょうど1月4日からだったんですよ。つまり、わずか3日間のズレで、西暦の変わり目とツォルキンの変わり目が重なり合うことになったわけです。3日ぐらいだったら調整可能ですよね(笑)、ちょうど1年が終わった後の休暇として。さらに、その"休暇・休日"という言葉の意味を探っていくと、"holy+day"に語源を持つ"holiday"には、もともと"全体性を回復する日"の意味があったようなんです。たとえば、石工の仕事は石を削ることですが、それが彼のすべてではありませんよね。職業人である以前に、ひとりの人間として、人間性・全体性を回復するための日が"休日"である、と。

私は、それをさらに敷衍して、"holiday"というのは、宇宙があってはじめて生まれた"地球人"として、自然の摂理を再び取り戻す日ではないかと考えています。いずれにせよ、新しい世紀を迎えるに当たっての、暦の上での"偶然の一致"は──少なくとも、こういった事柄を意識し始めた人たちにとっては──幸先のいいスタートだったんじゃないかと思います」

○"神虫"という発想

柳瀬さんは、『コズミック・ダイアリー』を通して、"自然のリズム"を取り戻すことの重要性を訴えておられますね。

「たとえば、私の講演会で"次の満月を知っていますか?"と聞いたとき、手を挙げるのは、だいたい100人中2〜3人、多くても、せいぜい5人くらいです。太陰暦が暮らしの中に息づいていた130年前の日本人が知ったら、きっとびっくりするでしょうね。また、小中学生に対する文部省のアンケートでは、"朝日、夕日を一度も見たことがない"と答えた生徒が、なんと全体の23%にも上ったといいます。

最近取りざたされている"17歳の問題"や"成人式の問題"……などを見ていて思うのは、大人が慨嘆するのもいいけれど、その前に、親や教師たちが、月さえ見ない"自然のリズム"を失った生活を送っている現実を考えたとき、子供たちにこのような問題が頻発するのは、ある意味、当たり前じゃないの? ということ。お金を儲けているわけでもない子供たちの口から"お金がいちばん大切"などという言葉が出てくるのは、親と教師がそう教え込んだから。

その価値観の中では、援助交際だってしてしまいますよ。それは、大人たちの責任だと思う。それを"感じて"ほしい。そこで、まず初めの第一歩として、ほんの一部でもいいから"自然の摂理・自然のリズムを感じてみよう"ということなんです。『コズミック・ダイアリー』では、"月を見ることから始めましょう""28日周期を身につけましょう"というアプローチを行っているわけですね。

周りの人・物・自然、木々や草花、地球、月、宇宙……に目を向け、"感じる"こと。これこそ文字通りの"環境意識"だと思うし──なぜ殺してはいけないのか?──という問いに対する答えは、理由ではなく"感じる"ことだと思うんです。そして、このような感覚を取り戻すことこそ、今いちばん重要なのではないでしょうか。"月見て何か得するの?"って言われることもありますが……得するんですよ(笑)。ただし、明日すぐにお金が、というわけではありませんが。

ところで、先の質問とは逆に、"虫の知らせを信じる人は?"と聞いた場合、YesとNoの割合は、ほぼ逆転します。つまり、ほとんどの日本人は、虫の知らせを信じているんです。よく考えてみると、これはすごいことじゃないでしょうか?つまり、"物理的に離れていても、情報交換ができる"ということを信じているわけですから(笑)」


日本人は"テレパシー"を信じている、と。

「それを"テレパシー"と呼ぶかどうかはともかくとして(笑)、"虫の知らせ"という言葉が出てきた文化的背景とは何かを考えると、昔の日本人は、草や虫や天気を見て……自然を見て農業を行っていたわけです。つまり、実際に虫からいろいろな情報を得ていたわけですね。虫が大量に発生した場合はこう……虫の動きが普段と違っていた場合はこう……といった具合に。

しかし、現在、このような文化はかなり失われてしまっていて、"虫は全部殺す"という農業が主流を占めている。葉たばこの栽培なんて、土の中まで燻蒸しますからね。『コズミック・ダイアリー』の中にも引用しましたが、九州で循環農法を営む赤峰勝人さんという方は、ある人が"これは、私の作った野菜です"と言うのを聞いて、"えらいなぁ、おまえがつくったんか。

野菜は、お天道様や、大地や、虫や、微生物や、水のおかげで育ったんで、わたしは、わたしがつくったとは、口がさけても言えん"と、おっしゃっています。つまり、人間ができることというのは"ジャスト・ヘルプ"であると。そのほうが科学的でしょう? そんな赤峰さんが循環農法を完成したとき、畑の虫について"神虫"だということがわかった、と。

どういうことかというと、完熟堆肥には、虫があまり発生しないんだそうです。逆に、そうでない堆肥の場合、虫が大量に発生して、成虫になったあと、作物を片っ端から食い尽くしてしまう。しかし、実は、後者によって作られた作物には毒性のある亜硝銀という物質が含まれていて、それを食べた虫たちも、やがて死んでしまうそうなんです。作物を食い尽くされたら、普通は"害虫"だと思ってしまうところですが……。

また、辞書を開いてみればよくわかりますが、日本人は、古来、"気"のつく言葉を非常に多く使っていますよね。"元気""病気""平気""気を使う""気のせい"などなど……。つまり我々は、かつて、"気を感じられる文化"を持っていました。しかし一方で、特に若い人たちの間で使われなくなっている言い回しもたくさんあるわけです。日本の文化についてさらに言うと……昔は、お茶を飲むときに、こうやってお茶碗を持って(きちんと両手を添えてカップを持ち上げて)、"いただきます"という言霊をかけて、はじめて口をつけていました。

気功に関心のある方ならおわかりでしょうが、ワインに手かざしして味を変えるまでもなく(笑)、この手の形+言霊で、少なくとも体の中の受け入れ態勢は十分に"変わる"。さらに、物質が変化するかどうかは、これからの科学の探究の課題。これもつまり、目には見えない"気"の循環を日本人が感じていたからこそ、作法として定着していたわけですね。現代の日本人も、本当はどこかで感じているからこそ、"虫の知らせ"を信じているんだと思います。ただ、このままでは"虫の知らせ"という言葉すら、なくなってしまうかもしれませんが……」

○日本が重要であることの意味

多くは"心"に起因するさまざまな問題が山積の日本ですが、アグエイアス氏は、そんな日本が"21世紀において重要な役割を果たしていく"といったヴィジョンをお持ちのようですね。

「ええ。97年の時点で、彼はそのような直観を得て日本にやって来たわけです──余談ですが、やはり同じ年に、ネイティヴ・アメリカンの長老、ウィリアム・コマンダ氏も、まったく同様のメッセージが託された、部族の"ワンパム・ベルト【注5】"を携えて来日しているんですよ。これまた不思議な偶然だと思いますが……。ホゼの考えには2つの理由がありまして、ひとつは、これまで述べたように、本来、日本人が自然の摂理に対する認識に非常に長けた民族であったという歴史的な事実。

もうひとつは、逆に、あっという間にその自然のリズムを見失ったという、これまた歴史的な事実。いい意味でも悪い意味でも、日本人の心性として、やはり集合意識の非常に強い部分があるということはいえると思いますが、ホゼが日本人の"可能性"について言う場合、こうした"歴史的事実"の正反対の現象が起こり得る、といった事態を想定しているのだと思います。つまり、何らかのきっかけさえあれば、たとえば"環境意識"のようなものでさえ、一気に広まる可能性を秘めているのではないかという見方です」

そういう意味では、"時間をはずした日の祭り【注6】"などは、潜在的な集合意識に訴えかける、最も効果的なアイデアだと思います。この"祭り"に対する柳瀬さんの"思い"をお聞かせいただけませんか?

「いちばん基本的なヴィジョンは、"祭り=精神界と現象界との循環"を、芸術の力によって世界中で起こしていこう、ということなんです。本来の魂の循環である祭り──時間をはずした日の祭り──は、地球上の至る所で行われ、しかも、そのひとつひとつについての情報が、ホームページ上などへフィードバックされる仕組みになっているのですが、たとえば、野外でのレイヴ・パーティを行っているグループからは"2重の虹、3重の虹が見えた"といった報告がくるし、子供たちと一緒に通りゃんせや花いちもんめをやったというグループからは、"全員がUFOを見た"などといった、驚くべき報告がくるんですね(笑)。

しかも、それを大きな木の周りでやっていたそうで、"その木がお辞儀をした"とかね。僕は、実際に見たわけではありませんので、それが科学的な現実かどうかはわかりませんが、彼女たちにとっては、リアリティのある"現実"だったんですね。そして、"祭り"というのは、そういったことが起こり得る場なんです。"時間をはずした日の祭り"は、自然のリズムを取り戻すひとつのアプローチであり、かつ、その自然のリズムを感じている人々が祭りを行っていく。

そして、その祭りというのは、人間の中にある生体・自然のリズムに呼びかける芸能・芸術であって、自然とも完全に呼応している。だから、虹が見えてもおかしくないし、"UFOが見えた"という感覚を持っても、まったく不思議ではないと思うんです。そういった意味で、本来の祭りの魂を取り戻すこと、同時にさまざまな場所で行われている祭りと祭りをイマジネーションによって結びつけること、さらには、祭りから生まれた人間の"祈り"によって地球全体のガイアを活性化させていくことができれば……と、願っています」

(自由が丘・ThanksNature Kitchenにて)


<プロフィール>

●やなせ・ひろひで:

 ビデオ『有森裕子─光り、輝くために』『REBIRTH─再・誕生』、テレビドラマ『ガラスの仮面』などの企画・プロデュースを手がける。97年より、『コズミック・ダイアリー』の企画・執筆を開始。多くのアーティストが賛同する"時間をはずした日の祭り"呼びかけ人でもある。

<キャッチ>

"虫の知らせ"を信じない日本人は、ほとんどいませんよね。

<リード>

夜空を見上げる余裕すら失ってしまった現代人に向けて、"宇宙のリズム""生体のリズム"を回復していこうと提案する『コズミック・ダイアリー2001』。同書の著者である柳瀬氏が、"感じる"ことの大切さについて熱く語ってくれた。

<クレジット>

取材・文● 編集部 text HOSHINOKOE
写真● 森 豊 photo YUTAKA MORI


【注1】ホゼ・アグエイアス:新しい時間の使者。教育者として、プリンストンをはじめとする各地の大学で教鞭を執る。長年にわたるマヤ数学/預言の研究に基づき、「ドリームスペル・キット」「13の月の暦」「テレクトノン」など各ツールを、ロイディーン夫人とともに開発。著書に『時空のサーファー』『アルクトゥルス・プローブ』『マヤン・ファクター』など。(本文へ戻る)

【注2】13の月の暦:1年を28日×13カ月+1日(時間をはずした日)=365日とする暦。『コズミック・ダイアリー』には、この「13の月の暦」をベースに、さらにマヤの神聖暦・ツォルキン(注4)などが組み込まれている。なお、"28"は、月の公転周期であるばかりでなく、太陽の自転周期や女性の平均生理周期、皮膚の刷新周期(ターンオーバー)とも一致するなど、宇宙・生体サイクルと、本来、深いかかわりをもつ数だと考えられている。(本文へ戻る)

【注3】ルーン:古代から中世にかけて、北欧スカンジナビアを中心とする地域で使用されていた文字。単なる記録手段としてだけではなく、神託を得るための神聖文字として広く用いられた。その起源や歴史については、いまだ不明な部分が多いとされる。(本文へ戻る)

【注4】ツォルキン:マヤの神官たちが神事のために用いていた"神聖暦"。13の銀河の音と20の太陽の紋章によって構成される13×20=260日のサイクル。この260日は"銀河の周波数"と呼ばれ、心や精神の問題を司るカレンダーとして使われていた。(本文へ戻る)

【注5】ワンパム・ベルト(記録帯):数百年前、"スターピープル"により、アニシュナベ族にもたらされたという、聖なるベルト。7つのダイヤがあしらわれており、それぞれが、7つの預言"セブン・ファイアー=7つの火"を表すとされる。伝承によれば、預言は時代順に並んでおり、すでに6番目の時代までが経過、我々は、いままさに"7番目の火の時代"に突入しようとしているという。この"7番目〜"は、このまま物質文明を暴走させるか(テクノロジーへの道)、愛と平和を象徴する"永遠の火"をともすことができるか(精神性への道)の二者択一の時代である。(本文へ戻る)

【注6】時間をはずした日の祭り:太陽の周りを巡る地球の公転軌道が、その1回転を完了することを示す、どの月にも属さない、曜日もない、自由な一日を、「13の月の暦」では"時間をはずした日"と呼ぶ。グレゴリオ暦では7月25日に当たる。柳瀬氏の呼びかけによって始まったこの日の祭りは、当初、口コミレベルであったにもかかわらず、日本で100以上、世界で300近いコンサート、イベントなどの賛同を得て、地球規模の、ひとつの大きなムーブメントを生み出した。(本文へ戻る)